ジョージアのホステルを転々として
ジョージアに来て3ヶ月が経つ。
ここ最近は、トビリシのホステルをいくつか転々としている。 価格、立地、清潔感。最初はそういう基準で選んでいた。
でも気づいたら、選ぶ基準がずれ始めていた。
鍵盤に触れた夜
あるホステルのラウンジに、古びたアップライトピアノがあった。
埃をかぶっていたけど、鍵盤を叩いたら音が出た。 そのまましばらく弾いていると、フロントの奥から小さな足音がした。
おばあちゃんだった。
スタッフでも宿泊客でもなく、どうやらそのホステルのオーナーらしい。 白髪で、小柄で、エプロンをつけたまま出てきた。
演奏が終わると、彼女はゆっくりと手を叩いた。 大きな拍手じゃない。でも、確かに聴いてくれていた。
部屋は静かで、窓の外にトビリシの夜の灯りが見えた。
りんごの一切れ
翌日の午後。ラウンジのテーブルで作業をしていると、またあの足音が聞こえた。
おばあちゃんが小皿を持って現れた。 りんごが数切れ、並んでいる。
何も言わずに置いていった。 ただ、それだけ。
甘くて、少し蜜がにじんでいた。 そのりんごがやけに美味かった。
人はお金より自尊心に飢えている

ここで気づいた。
自分がホステルに求めているのは、安さでも設備でもない。 「ここにいていい」と思わせてくれる場所かどうか。
拍手一つ。りんご一切れ。 それだけで、自分の存在が「受け取られた」感覚がある。
自尊心。 つまり、自分を大切にされているという感覚。
お金はあれば確かに便利だ。でも、それで解決できないことがある。 人はおそらく、お金よりも自尊心に飢えている。 それを満たしてくれる場所・人に、自然と引き寄せられていく。
誠心誠意が返ってくる
そしてもう一つ。
おばあちゃんが拍手してくれたのも、りんごをくれたのも、おそらく偶然じゃない。 こちらが彼女のホステルを、彼女の場所として大切に使っていたから、だと思う。
適当に弾いたんじゃなくて、ちゃんと弾いた。 ラウンジを散らかさずに使っていた。
誠心誠意持って人に接すれば、相手はそれに応えようとする。 これはホステルの話じゃなくて、人生の話だと思う。
また明日もあのホステルに戻ろう、と思っている。 安いからじゃない。 あのおばあちゃんに、もう一度会いたいから。




