ドアを開けると、フロントに一人の女性が座っていた。 ただそれだけだった。 客は、僕しかいない。
iPhoneで博物館を探していたら、「ドボルザーク博物館」が目に止まった。 聞いたことがある名前だな、と思って調べてみると、あの「新世界」を作った作曲家じゃないか。
しかもチェコ出身だったとは、まったく知らなかった。

ホテルからすぐ近く。
人通りの少ない通りを抜けて、博物館へ。 玄関には誰もいない。
チケットを1つ買い、どこの国から来たか聞かれた。 日本と答えると、日本語の資料を貸してくれた。
フロントの女性は、無愛想でもなく、にこやかでもなく、ただ淡々と仕事をしているようにチケットを売ってきた。
展示はめちゃくちゃ少ない。 1周して、2階にも本当にただ少し展示物があるだけ。
博物館は平日だったからなのか、人が少なく、閑散としていた。 フロアにいたのは、僕と一人の女性だけだった。 木の床は雨だったからなのか、少し湿っていた。
彼はサンクト・ペテルブルグ、ドイツ、ポーランドと多くの国で演奏をし、アメリカの大学で教授も務めた。 その時のトロフィーが飾ってあった。


そして、彼が使っていた机と椅子。 触ることができるようになっていた。
彼が椅子を引いた時に触ったであろう部分を、僕も触ってみた。 目をつぶって、彼はどのようにしてこの椅子を引いたのか、感じようとした。
木はざらざらしていた。 彼が何千回も利用した椅子だからこそ、それが伝わってくる粗さだった。
偉大な音楽家が座った椅子を、今、自分も触っている。 純粋にすごいことだなぁと思いながら、驚きと、戸惑いと、そんな感情があった。
何十年も前、彼はこの椅子を使っていた。

彼が使っていたピアノ。
こんな古い時代に、これほど複雑で、言葉では表すことができない音楽を作ることができるなんて。
僕は美術館そのものに興味があるわけではない。 だけど、好きな音楽家の博物館となるとわけが違う。
きちんと説明を読んで、鑑賞して、感じる。
外に出た瞬間、まるで現実の世界に戻ったかのように寒かった。 なにか、悲しいムードだった。




