イヤホンの充電が切れた。
たったそれだけのことが、この日いちばんの出会いを連れてきた。
朝7時から戦場
17日のラトビア行きまでに、年内の作業をすべて終わらせる。
そう決めて、朝7時から夜19時まで、Fabricaの作業スペースにこもっていた。
途中、何度も眠気に襲われる。どうにか自分を奮い立たせて、画面に向かい続けた。
Fabricaの作業スペースは、いつも人でいっぱい。席が空くとすぐに誰かが座る。新しく来た人は「Is it available here?」と聞いてくる。そんな場所。
僕はイヤホンをして、自分の世界に閉じこもっていた。

「Mobile developmentできる人いる?」
イヤホンの充電が切れた。
外した瞬間、隣に座っていた男が声を発しているのが聞こえた。
「誰かMobile developmentをできる人いる?」
僕はWebデザインやWeb developmentをしていることを伝えた。自分のサイトや、これまでデザインしてきたものを見せると、彼は「とてもいいね!」と言ってくれた。
正直、眠たすぎて頭が回っていなかった。
だけど、彼に「なんのプロジェクトをやっているの?」と聞いた。WhatsAppを交換した。
彼の名前はConstantin。
奥さんと息子2人と、1ヶ月前にトビリシに来たらしい。事情があって母国を離れたようだった。英語はあまり得意ではない。それでも、彼は自分のプロジェクトについて、その場でプレゼンテーションを始めた。
すごいなぁって。本当にすごいなぁって。
まずはそれだった。
それから、ちょっと怖い。いきなり初対面でプレゼンをされるのだから、正直「怪しい」という気持ちもよぎる。でも、それをなるべく隠して、コミュニケーションをとった。
彼のプロジェクトは、歩いて仮想通貨を稼ぐだけではなく、お店や学校、世界中のどこからでも仮想通貨を稼ぐことができるプラットフォームを作るというもの。
とてつもなく大きなプロジェクト。
だけど、彼がやろうとしていることには間違いなく興味があったし、本当におもしろそうだった。僕ができることはぜひやりたい、とお話した。
スキルがなくても、人を動かせる
彼の戦略はこうだった。
まず見栄えのいいプロトタイプを作る。それをインベスターにプレゼンする。資金を得たら人を雇い、プロジェクトを本格的に動かす。
Constantinは本当に起業家だった。プログラミングのスキルはない。あるのは、プレゼンテーションのスライドと、彼のアイデアだけ。それだけで、すでにパキスタンに4人のエンジニアチームを持っている。
彼は地元でローカルビジネスをやっていたけど、規模が小さくてつまらないと感じていたらしい。だから、もっと世界中に影響を与えるビジネスを作りたい。そう話す彼は、常に笑顔だった。
本当に楽しそうだった。

彼の行動力に驚かされた。いきなり作業スペースで「Web系の仕事をしている人はいる?」と話しかける。その一言で、出会いを自分から作っている。
気付かされたことがある。
自分がエンジニアでなくても、人を動かすことができればなんだってできる。そして、もっと気軽に色んな人に話しかけていい。人生は一度しかない。彼はそれを僕に教えてくれた。
僕は眠たくて、表情を作るのに本当に苦労していた。だけど、Constantinと出会ったことは、大きな大きな発見だった。
あとは自分次第。
シャイな自分を変えていくこと。もっと色んな人に話しかけていくこと。小さく小さく、それでいい。最初は話しかけることがあたりまえの国で訓練して、最終的にはどこに行ってもオープンに人と繋がれるようになる。
これを克服すれば、必ず人間力も上がる。もっとポジティブでオープンな人間になれる。そして、すばらしい出会いをずっと作り続けることができるようになる。
イヤホンの充電が切れただけで、こんな出会いが生まれた。
充電が残っていたら、僕はずっと自分の世界に閉じこもっていただろう。出会いを作るか作らないかは、結局、自分次第なのだ。



