「商店街でクレカが使えることを祈ってる。だって、財布忘れちゃったから」
エレーナにそう伝えた瞬間、自分のダサさに落ち込んだ。中世の町サルラ=ラ=カネダで、僕は財布なしで大晦日を迎えようとしていた。
中世の町、サルラ=ラ=カネダ
朝、ドミニクが作ってくれたエスプレッソを飲んだ。イタリアンファミリーだから、コーヒーを頻繁に飲む。ブラックのエスプレッソ。すばらしく美味しい。
今日のプランはなんだろうと思いながら、みんなが準備をしているので僕もなんとなく上着を着て車に乗った。サルラ=ラ=カネダに行くらしい。クリスマスマーケットや商店街がある小さな町。車の中で気づいた。財布を忘れた。
車の中ではずっと寝ていた。エレーナに肩をたたかれて目を開けると、すごい景色が広がっていた。中世ヨーロッパのような建築。すべての建物がすごく綺麗で、まさにヨーロッパという感じだった。

駐車場から降りた瞬間、泥まみれ。エレーナにさりげなく財布のことを伝えると、商店街ではおそらくユーロ札が必要だと言われた。まじか。iPhoneのカードで払おうとしたけど、Quickpay対応だったので使えない。申し訳なくエレーナに払ってもらった。
「後で返すね、ありがとう」と言うと、「いやいや別にいいよ」って。その言葉がもっと僕のメンタルを弱くした。おごられるのが好きじゃない。プレゼントなら嬉しいけど、お金のおごりはすごく嫌だ。自分で買うことで自分のものになる。つまり、自由。僕はどうにかして独立したかった。でも、財布を忘れたのは自分だから。

たくさんの場所を歩いた。階段の最上階まで行って、「ここから飛びたいなぁ」と言うと、「飛べば? 骨折するのは自分だよ」とジョークを言われた。
クリスマスマーケットと、フォアグラの町
この町はフォアグラで有名で、ガチョウの銅像があるくらい。僕は記念に鶏の置物を買うことにした。

クリスマスマーケットへ行くと、お母さんやドミニクがいて、ホットワインと焼き栗を食べていた。ドミニクが僕のホットワインを買ってくれた。焼き栗も最高に美味しかった。

なにかをしてもらったり、買ってもらうたびに感謝の気持ちと返報性の原理が働いて、なにかしてあげられることはないかを考える。でも、それがずっとマイナスになると逆にストレスになってしまう。人からやってもらうことは好きだけど、やってもらいすぎるのも気分が悪くなる。
僕が一人でお店を見ていると、エレーナは僕のそばに来てくれて、一緒に見てくれた。エレーナは自分用にエレーナと書かれた木製のノートを購入していた。僕はリングを見つけた。中にハーブか植物が入っていて、とても綺麗だった。「エレーナ! これ見て! めちゃくちゃ綺麗じゃない? 買ってもいい?」って。もちろん後で返すけども。

そういえば、僕の嫌いなものとエレーナの嫌いなものがほぼ同じだということに気づいた。ブルーチーズ、エスカルゴ、フォアグラ。似た者同士。
エスカルゴを食べたかったけど、1件目は売り切れ、2件目は断られた。エレーナはプレッツェルが好きらしく、それを買って食べていた。僕にも少し分けてくれた。もっと硬いイメージがあったんだけど、すごく柔らかくて意外だった。

商店街を出てからは、コジーな雰囲気のお店に入ったりして散歩した。エレーナはロキシタンが好きらしく、クリームを買っていた。僕はロキシタンのリップクリームを購入した。1300円。本当に香りが良くて、決断も早くした。

個人主義の国で
スーパーへ向かう車の中で、エレーナと「フランス人の個人主義」についてずっと語り合っていた。僕の言う「相手のことを気にしない」と、エレーナの「相手のことを気にしない」の意味合いがずれていたので、それをすごく知りたがっていた。
ドミニクにもフランスのイメージを聞かれた。すごく個人主義で、相手の人生には入らない。やりたければ好きにやって、だけど私はそうではないとはっきり言う。食べ物が最高に美味しい。言わないと伝わらず、察しての文化がない。
日本では友達を作ることが難しいという話もした。僕のインスタには400人くらいのフォロワーがいるけど、日本人の「友達」と言える存在は3人から5人くらい。ほとんどがヨーロッパの友達ばかり。
フランスのように、「その考え方ならばそれでいい。でも私は違う。でもそれだからといってあなたのことを嫌いにはならない」という文化が大好きだと伝えた。日本では自分と違う意見を言うと関係を切る人が多い。フランスは個人主義で、人それぞれの人生があるから自由。同意できない場合は同意できないと言うけど、それで嫌いになったりはしない。なんて素敵な文化なんだろう。

お昼ごはんはバゲット。バゲットばかり。フランスに来てから少食になった。エレーナもお母さんも本当に食べないから、自然と僕の量も減る。バゲットにカマンベールを乗せて食べた。匂いがきつい。冷やしていなかったから発酵が進んでいるのかもしれない。

人生で初めてロックフォルトを食べた。すごくチーズとは思えないほどの味で、ドロドロしていた。ブルーチーズはもっと硬いイメージだったけど全然違う。食べている最中に気持ち悪くなった。一度食べればもういい。「本当」のブルーチーズが嫌いになった。
水がほしいと言うと、ドミニクは水道水を渡してきた。フランスでは水道水が飲めるらしい。
午後のサルラ、再び
みんなでサルラへ戻った。今度は財布を持ってきたのでATMでおろそうとしたけど、2回試してダメだった。ふと考えると、日本時間の1月1日0時15分。年明けから15分。それが原因かもしれない。

エレーナとクリスマスマーケットを歩いた。途中、10歳くらいの子がトランペットを吹いていた。チュロスを二人で試した。エレーナは林檎がのったチュロスのようなものを食べていたけど、半分でお腹がいっぱいになって僕が残りを食べた。なんて胃が小さいんだ。
ペルー人の人が毛糸の羊の置物を売っていた。小さいのが1ユーロ。僕は2ユーロの大きな羊を買った。本当に可愛かった。

エレーナは友達の分と自分の分も買っていた。プレッツェルの残りもお母さんにあげると言って残していた。「僕だったら全部食べてなにもなかったかのようにするのに」って言ったら笑っていた。本当に、友達思いで暖かい人だなぁって。


教会にも行った。キリスト教の教会は初めてだった。聖マリアのステンドグラス、たくさんの席、本当に神聖な場所。綺麗だったけど、なぜか不気味な感じがした。

広場のカフェでエレーナと座って、2022年を振り返った。僕は今年、本当に挑戦の年だった。大学を終えて、就職活動をしていなかったから働くところもなく0円。そこからWeb制作を学び始めて、一日10時間を5ヶ月。しんどかったけど、ようやくフランスで年越しをできている。エレーナにジョークで言っていた「お母さんのジェノベーゼを食べたい」が実際に叶うなんて、1μも思っていなかった。


帰り道、エレーナは買った羊で遊んでいた。何匹連続で上に乗せられるか。全部乗った時は「イエーーーーーイ!」って。

家に着くと、夕日がとてつもなく綺麗だった。一面に広がる広大な土地。オレンジ色の線と青色の線が混ざり合う。

暖炉の近くで、買った羊に名前をつけた。エレーナはZibra。僕はKevin。映画「Up!」に登場する目の大きな鳥ケヴィンから。この羊も目がすごく大きくてかわいいから。「願いはした?」と聞かれたけど、まだしていない。名前を決めるだけで精一杯だった。
せっかくなので映画を見ようということになった。最初はドミニクのおすすめした映画を見ていたけど、僕はフランス語が全く理解できなくて興味がなかったので、途中で僕の好きな映画「タクシー」に切り替えた。エレーナはタクシーを気に入ってくれたのか、映画の途中ですごくたくさん笑ってくれた。それが嬉しかった。フランスの映画といえばタクシー。最高におもしろい。
フォアグラとエスカルゴの大晦日
夜ご飯の前のL'apéroで、イタリアンサラミとスペインのランブルスコを飲んだ。ドミニクがワインを開けてくれて、乾杯。最高に美味しくて、喉が渇いていたので一気飲みをしてしまった。ドミニクに「一気飲みはしちゃいけないぜ!」とジェスチャーで教えられた。とにかくいつも元気。

年越し前最後のご飯。卵にマヨネーズとツナがのった前菜、エスカルゴを含む海鮮プレート、サラダ、バゲット、フォアグラ。本当にたくさんの料理。

フォアグラは正直1つで十分。たくさんありすぎるとうっとおしく感じてしまう。
そして、ついにエスカルゴ。貝は嫌いだけど、経験として食べたかった。マヨネーズと一緒に食べた。途中で息を止めた。もし息をしていたら吐いていたかもしれない。それくらいまずかった。ドミニクの奥さんは平気で食べていたので、やばって思った。

エスカルゴをついにフランスで食べることができた。もちろん不味かった。でも、経験として食べたかったから、それだけで幸せだった。白ワインも赤ワインもドミニクが注いでくれた。ロゼワインだけで2杯。本当にすべてが美味しかった。ケーキを食べ、みかんを食べ。

エレーナはキプロスで出会った友達のためにみかんに落書きをしてインスタで送っていた。いつも友達思いで、本当に暖かい人。

満天の星と、カウントダウン
外に出て星空を見た。本当に本当に綺麗だった。まさかこんなに星が見えるなんて。夜空は満開で、なんの星か言えるくらいに明確だった。エレーナと散歩をしながら、「この星はこれだよね」とか話していた。

僕はすごく酔っていたけど、星が綺麗すぎて本当に感動していた。

今まで見た中で一番綺麗な星空かもしれない。僕の家からは光があって星があまり見えない。エレーナの家では夏になると庭から星を見るらしい。彼女にとっては驚くことではないけど、僕にとっては特別だった。フィルムカメラでも撮影した。
外も寒くなってきたけど、これが12月31日だとは思えない。日本よりも暖かくて、12度くらいある。
中に入ると、エレーナは恐竜のVigorを抱えてソファーで眠っていた。次の人生はベッドになりたいと言っているくらい寝ることが好きらしい。Hello Talkで初めて自己紹介した時も「好きなことは書くこととベッドで寝ること」って言っていた。Vigorを抱きしめて寝る姿は本当に可愛くて、無邪気だった。
ボードゲームをやろう! とドミニクが提案した。さいころを振って6が出たらスタートできるゲーム。エレーナがすごく早くて一番にゴール。それからお母さん。ドミニクと僕はゴールに手こずって、お互いに2回蹴飛ばして振り出しに戻ったり。接戦の末、ほんの少しの差でドミニクが勝った。「あああああああ!!!!」ってなった。最高にたのしかった。エレーナが僕の肩をたたいて慰めてくれたけど、いまだに悔しい。

「星空の写真を撮ったから僕に払うべきね」と言ったら、「モデルをしたんだから私に払うべきね」とエレーナも返してきた。
年越しまであと30分。シャンパンの準備。5分前になって動画を撮り始めた。30秒前からみんなでフランス語でカウントダウン。
2023年になった瞬間、エレーナがシャンパンを開けた。
Bonne année!






