「日本の天皇陛下の名前は?その娘の名前は?何歳?」
エレーナのおじさんは、会った瞬間からハイテンションだった。矢継ぎ早に質問してくる。唯一の事実は彼が10人兄弟だということ。それ以外はすべてジョーク。本当にジョークしか言わない人だった。
田舎のパン屋と、ぶどう畑を抜けて
朝9時30分に起きた。今日は、おじさんと合流してSaint-Geniesという小さな町の近くにあるコテージへ向かう。11時30分に出発。
今日も朝起きてどうやって挨拶していいのかわからなくて、それを考えてしまうのは僕にとってストレスだった。おはようって言えばいいんだけど、なにかと考えてしまう。最終的にシャワーを浴びるのにも30分くらい待ったので、朝早く起きて一番にシャワーを浴びることが大切だなぁって思った。
朝はバゲットとバターだった。フランスのバゲットは最高に美味しい。考えられないくらいに。僕は昨日のパンをパン焼き機に詰め込んで、出来上がって手でとろうとしたんだけどすごく熱くて、エレーナが専用のトングでとってくれた。フランスではレトロなパン焼き機を使っているので、使い方がわからなかった。
エレーナとは朝、30分くらい大学のうざい先生の話をした。頑張っている生徒に点数をくれない先生がいて、エレーナがそれを教育長かなにかに報告したら、その先生が首になったらしい。なんてかっこいいんだ。シャイなくせにインディペンデントで、つらい思いをしている人ほどこうやってどんどん強くなっていく。彼女も昔に比べたら、といっても1.5年前に出会ったばかりなんだけど、強い人だなぁって思う。

最初に立ち寄ったのは、エレーナが小さい頃に住んでいた町のパン屋さん。「ベスト!」と言われる店。


田舎のパン屋さんなんだけど、パンオショコラもすごく大きくて、クロワッサンも本当にクロワッサンだった。最高に美味しそうだった。


車で田舎道を走る。途中、たくさんのぶどう畑があって、フランスを感じる。2日前のお昼に飲んだワインの生産地。リージョナルワイン、ぶどう品種シラー。車の中には常にジャズが流れている。
エレーナの車は小さいからこそ、なにかロマンがあってかわいい。高級車とか新車じゃないところが、逆に素敵なんだよなぁって。
おじさんとの合流
コサードという町に到着。綺麗な町で、田舎とは思えないほどのリアルなフランスを感じる町だった。お母さんが「カフェでなにか食べたい?それとも歩きたい?」と聞くので、カフェへ行くことにした。選択を迫られるとどうしても迷ってしまう。どちらが自分のしたい選択かわからない。正直、車の中でゆっくりしたかったけど。
カフェに到着すると、美味しそうなケーキや食べ物がたくさん。こんどこそ自分で支払おうと思って財布を出すんだけど、お母さんがお茶をついでに買ってくれた。エレーナが大好きなマロングラッセも僕の分まで買ってくれた。
席に着こうとしたとき、どこに座ったらいいかわからなくて、どうしても日本人マインドが出てしまう。一番奥はお母さんが座るべきだとか、そんなことを考えてしまう。だけどフランスにはそんなものは存在しなくて、どこの席でもいい。エレーナの性格的にもなにも気にしない感じなので、おそらくどこに座っても問題ない。困惑してしまったので、とりあえずトイレへ。
トイレから戻ると、おじさんとその奥さんが到着していた。おじさんはハイテンションでトーカティブだった。僕にいろんな質問をしてくれる。「僕は68歳に見える?」って。そういう人は自動的にいろんなお話をしてくれるから、自分が話す必要がなくてすごく楽。きっとエレーナもそう思っていると思う。お店にはチョコレートやスイーツがたくさんあって、すべてが美味しそうだった。


マロングラッセは最高においしかった。金色の紙に包まれていたから、最初チョコレートかと思った。だけどマロンだった。
La Bastide Saint-Geniesへ
再び車に乗って最終目的地へ。さらに1時間ほど。なんとおじさんの実家で過ごすのではなく、田舎町のコテージへ行く旅行だった。
車の中ではトリュフの話をした。いまから行く地域は黒トリュフで有名らしい。フランスの中でいちばんかわいいと言われている建築様式の町なんだとか。
エレーナは自分が描いた絵を見せてくれた。とても上手で、友達思い。彼女の心は暖かい。常に人のためになることをしようとしたり、人にGiveすることが大好きらしい。ピアノを弾くよりも絵を描く方が彼女にとっては簡単で楽だという。音符を覚えて練習するプロセスがあるピアノと違って、絵はすぐに表現できるから。

小さな町に到着。La Bastide Saint-Genies。山がなくて盆地っていう感じで、広大な土地にいくつか家がある。馬が草を食べている。
こんな風景のところで新年を迎えることができるなんて。普通、フランスへ旅行するっていうと、パリとかトゥールーズの町でカフェに行ったり、観光地を巡って終わり。僕はそれが嫌いで、常に人に興味がある。だからこそ良い縁に恵まれて、エレーナと出会い、家族の一員になって新年を迎えることができる。本当に幸せなこと。

コテージは大きすぎて驚いた。日本のコテージは4人用だけど小さい。フランスのこの家は広大で驚いてしまった。
僕とエレーナとドミニクの3人はバゲットを買いにスーパーへ。僕はポストカードとキャラメルプリンとマロンを買おうと思って手にとった。エレーナに「マロンを買うんだ!」と言うと、「家にあるから買わなくてもいいのに」という感じで言われた。お会計の時におじさんが「Kota!買ってあげるからいいよ!」って。優しいし太っ腹でうれしいんだけど、僕にとってはちょっとコンファタブルではない。僕は金銭的な面で人におごってもらうのが嫌だ。プレゼントをもらうのは嬉しいし、やってもらうことは大好きなんだけど、お金の面でおごってもらうのはなぜか好きじゃない。自分で買うことによって自分のものになるし、いつ食べてもいい。つまり、自由。僕は自由を求めているんだなぁっていうことがわかった。
エレーナと朝お話したのが、一人で住むのかおばあちゃんと住むのかどちらが好き?って聞かれたので、僕はもちろん一人で住みたいって。すべて自由になるからって。エレーナも同じだった。似た者同士。
お母さんから「エレーナがすごく心配していた。Kotaが退屈になっていないかなぁって」と聞かされた。そんなことないし、すごく楽しいよって伝えた。僕とエレーナは内向的な性格で、とてもセンシティブだから、そういうことを敏感に感じてしまう。お母さんは僕たちのことをよくわかってくれていた。エレーナもキプロスにいた時、集団でどこかへ行く時に「なにを話していいかわからない」とお母さんに電話で相談していたらしい。
その気持ちはすごくわかる。だからこそ僕たちの友達の大半は外交的な人ばかり。お互い似ている。別に話すことがなければそれでいい。時間を一緒に共有できるだけで幸せだし、一人の時間が好きだから、気にしなくて大丈夫。
暖炉の夜、L'apéro
夜ご飯の前にL'apéroという軽食の時間。典型的なフレンチ。SaucissonとFromage de chèvre(ヤギのチーズ)、イタリアのGrissini、ワイン(TARIQUET)。


ラムを飲んだ。甘くてとてもおいしくて一瞬で飲んでしまった。オリーブも食べてみた。美味しくはなかったけど、すごくオリーブだった。
暖炉に火がつき、5人で温まりながら過ごす。人数も少ないので緊張することなくゆっくりできて、とても居心地が良かった。お母さんは兄弟のドミニクとその奥さんとフランス語で家族のお話をしていた。
ラムとワインのおかげで少し酔った。だからトーカティブになって、スマホの防御ガラスの話をしたり。エレーナは「同意できないわ、私は1週間に5回は落とすから」って。そりゃ防御ガラスがあったほうがいい。
写真の枚数についても話した。エレーナはキプロスで750枚。僕はラトビアで1500枚。見せると、えええ!って。彼女は自分の写真が好きではないらしく、顔に自信がないだとか。僕にはわからない。彼女の横顔は美しいのに。
指輪の話も。フランスでは心臓に近い左の薬指に結婚指輪をはめるのが普通で、それ以外は理由がない。日本で左の人差し指にはめると縁結びや恋に積極的になると伝えると、「私は結婚したくない」って。知ってる(笑)。酔っ払っていると話が進む。

夜ご飯と、暖炉のそばで
夜ご飯はジェノベーゼパスタとサラダ。パンにヤギのチーズをつけて食べる。これも最高に美味しかった。美味しすぎた。フランス語で話される会話を楽しんだり。

おじさんがエレーナのリングを押しつぶして曲げてしまった。すごくおちゃらけていたけど、傷ついているわけでもなく、みんな楽しんでいた。怒るけどそこまで、っていう感じ。そこに愛がある。
エレーナとおじさんは本を頭の上に乗せて歩いて一周するゲームをしていた。本を落とさずにできるだけ早く回って一周するゲーム。僕は途中で落としてしまったけど、エレーナは最後まで。だけど後から思ったんだけど、これは完全に頭の面積だなぁって。僕の頭の面積はエレーナやドミニクに比べて小さい。だから本を落としやすい(笑)。
エレーナがシャワーを浴びた後、香水の匂いがリビングに充満した。とてもいい香りで、なんだか素敵な感じがしてしまった。だって良い匂いなんだもの。ちょっとドキってしてしまういい匂い。
お風呂に入りたくて「入っていい?」と聞くと、「聞く必要ないよ!」って。日本では順番があるので、その常識にとらわれてしまった。誰が入ろうが順序なんて関係ないのがフランス。それも素敵だなぁって感じた。
お風呂に入って出て歯磨きをしようと思ったら、なんと犬が僕の部屋でおしっこをしてしまっていた。それを知らずにふんでしまった。まじで。足だけを洗って、暖炉の前で温まっていた。

夜、日記を書こうと一階へ行くと、エレーナも修士のリサーチをするためにパソコンを持ってきた。一緒にワークをした。ほとんどお話をしなかったけど、一緒の空間で時間を共有できて、嬉しかった。
これこそが大事なんだと思う。まだ慣れていないし、見えない壁はあるし、僕は言う前に考えてしまう性格。だけど、この時間はとても大切だった。すごく良かった。




