忘れた目覚ましと、静かなあせり
眠れぬ夜の余韻を引きずったまま、朝が来る。
目覚ましは7時50分にセットしたはずだったのに、なぜか1時間ずれて8時50分。
目を覚ましたときには、すでに朝食は終わっていた。空腹の身体に、ほんのり残る苛立ち。
だけど、そんなときに限って、旅は始まる。
とりあえず、シャワーを浴びることにした。
昨日の雨で水は泥混じり、ペットボトルで洗うしかなかった。
でも今日は違った。透明な水が出た。ただそれだけのことが、少しだけ希望だった。
荷物を背負い、街へと
身支度を終えて、15キロを超えるリュックを背負う。
ランドリーに洗濯物を取りに行き、トライシクルのおっちゃんに「あとで行くから待ってて」と言っておく。
エルニドの町は、朝から太陽がまぶしい。
前回の教訓を胸に、バス停には30分前に着くよう心がけた。
あのとき、真ん中の席に押し込められて5時間揺られた記憶が、まだ身体に残っている。
急いでクロワッサンを食べる
近くのパン屋で、朝ご飯にほうれん草のクロワッサンを買う。
さすがに空腹のまま5時間のバス移動は危険すぎる。
味はなかなか。でも値段は400円以上。
その場の空気に比べて、なんだか妙に高く感じた。旅先の物価感覚は、いつも不思議だ。
パンを5分で食べ終え、バス停へ急ぐ。だけど、バスが多すぎてどれが自分のかわからない。
まるでカオスの中に放り込まれたようだった。
「Hi!」から始まる旅の彩り

そんなとき、「Hi! Are you gonna go to PPC?」と明るい声が響いた。
イギリス人のカップル、AndrienneとLewis。
彼女は太陽みたいな笑顔で、扇風機まで差し出してくれた。
出会って数分で握手をして、名前を呼び合って、まるで旧友のようだった。

僕の顔が汗で滲んでいるのを見て、そっと扇風機を渡してくれるその仕草。
言葉以上に、心が伝わる瞬間だった。
バンの中、ぎゅうぎゅうの物語

ついにバンが来て、僕たちは乗り込む。
もともと4人で来るはずだった彼らは、2人の友人が食中毒になってしまい、2人だけでの移動に。
だけど、車内はあっという間に満席。
僕の隣には小さな女の子が2人。ひとつの席にちょこんと並んで座っている。
何度も僕の顔を見て、僕もニコッと笑う。
その純粋な目に見つめられると、なんだか心がほぐれていく。
走り出したバンは、10kmほど走ったところでまた停まった。
次々に人が乗り込んできて、ついには完全にキャパオーバー。
でも、それもまたフィリピン。
ぎゅうぎゅうになってでも、誰かを受け入れるその文化は、不便さと優しさが隣り合わせ。
肉まんとアイスと、好奇心をくすぐる

3時間走って、ようやくロハス近くで休憩。
同じようなバンが並んでいて、どれが自分のか一瞬わからなくなる。
トイレに行き、時間を確認して30分間の小さな自由時間。
そこで出会ったのは、チキン入りの肉まん。50ペソ(約125円)。
ちょっと高い。でも好奇心が勝って、手に取る。
味は悪くない。素朴で、温かい。
アイスにも心惹かれたけど、食中毒への恐れが勝って断念した。
インスタグラムという小さな勇気
そして僕は、勇気を振り絞って彼らにInstagramを聞いた。
交換できた。拒絶なんて、なかった。
むしろ彼らは嬉しそうに「Nice!」と言ってくれて、僕の靴を褒めてくれた。
その瞬間、僕の中の何かが少しはずれた。
僕は受け入れられてもいいんだ。そう思えた。
自分を映すドキュメンタリー
バンの中、窓の外を流れる景色。
その中で、僕は考えていた。自分のYouTubeを、どう表現するか。
表面的な記録ではなく、自分の中を映し出すドキュメンタリーにしたい。
旅というフィルターを通して、自分自身を見つめ直すような作品を。
到着、そしてホステルの屋上にて

Puerto Princesaに着いたのは夕暮れどき。
Mojo Hostelにチェックインすると、欧州出身のオーナーが迎えてくれた。
少し厳しそうな顔に、一瞬びびったけど、ただの表情だった。
夜は屋上のバーで、プレート料理とマンゴーシェイクを注文。
フランス人、ドイツ人、イギリス人たちが楽しそうに談笑している。
そんな中で、僕は不思議と「孤独」を感じなかった。
小さな「Hi!」、その声の変化
そして夜、部屋の中で「Hi!」と声をかけた。
小さな声じゃない。ちゃんと、自分の声で。
それだけのことなのに、なんだかとても誇らしかった。
僕は少しずつ、殻を破っている。旅の中で、確かに。




