朝5時、高熱で目が覚めた。というより、ほとんど眠れなかった。やっと寝れたと思ったら汗で起きる。枕元のポカリもお水もすべてなくなっていたので、40℃近い状態で1階まで歩いてお水を汲みに行った。本当にしんどかった。パラセタモール(解熱鎮痛剤)を飲んでも全然効いてくれない。
お手洗いに行くと、尿の色が少し赤っぽくなっていた。いつもなら透明な黄色なのに。これは緊急事態だと思った。急いで部屋に戻り、ORSパウダー(経口補水塩)を大量にペットボトルに入れて飲んだ。
頭をよぎったのは「横紋筋融解症」——激しい運動で筋肉の細胞が壊れて、中身のミオグロビン(筋肉中のタンパク質)が血液中に漏れ出し、それが腎臓に詰まって急性腎不全を引き起こす症状だ。1週間以上、毎日4時間の筋トレを続けていた。十分にあり得る。とにかく水分を大量に摂って、ミオグロビンを排出しなければ。
朝6時、病院へ行くことを決めた。知り合いにおすすめの病院を聞いて、私立のチェンマイラム病院へGrabで向かう。バイクの上で、もし人工透析になったらどうしようとか、こんなことが人生で起こるのかとか、信じられない気持ちだった。おばあちゃんとお母さんにも連絡した。
緊急外来
病院に到着して緊急外来へ。パスポートは忘れてしまったのでコピーで登録してもらい、症状をまとめた文章を看護師さんに見せた。血圧を測ってもらい、しばらく待ってから診察。先生に症状をすべて伝えた。赤っぽい尿が出たこと、毎日4時間の筋トレを続けていたこと。血液検査と点滴をお願いした。
ここで少しだけ安心できることがあった。尿意を感じたので尿検査をしてもらったら、色がしっかり黄色に戻っていた。ORSを大量に飲んだおかげかもしれない。看護師さんも、思ったより普通じゃんっていう顔をしていた。
採血では、腕ではなく手の甲から血を取った。子どもの頃の点滴を思い出した。針1本でいくつものチューブに血を入れていく手際が本当にプロだった。何かの薬を投与してもらい、そのあと大きな生理食塩水の点滴が始まった。
ドクターXのような入院室

点滴が始まり、部屋を移動することになった。案内されたのは上階の入院室。これがめちゃくちゃ豪華だった。トイレ、シャワー、歯磨きセット、テレビ完備。景色もきれい。まさにドクターXで見るような、広くてきれいな病室だった。
しばらくすると、新しい看護師が来て病状を聞いてくる。さっき先生に話したのに。また最初から説明。さらに別の人が来て、今度は日本語がペラペラだった。チェンマイにこんな人がいるのかと驚いた。そしてまた病状を説明。何回伝えればいいねんって思った。横の連携が取れていないのが丸わかりだった。そして正直、毎回診察代を取ろうとしているんじゃないかとも思ってしまった。私立病院だからね。

先生が来ると、看護師さんや通訳の方も合わせて5人が病室に。先生が次の部屋へ移動すると、スタッフが先生の後をついていく。まさしくドクターXの世界だった。観察者目線で見ていると、本当に面白い。
検査結果—大事には至らず
血液検査の結果、CPK(クレアチンキナーゼ)という筋肉の損傷を示す値が基準値を超えていた。ただし、横紋筋融解症なら20000以上になるところ、僕は275。深刻なレベルではなかった。腎臓も問題なし。尿に若干の潜血はあったけど、炎症レベルでよくあることらしい。
デング熱やチクングニア熱(蚊が媒介する感染症)の抗体検査もNegative。腎臓のエコー検査でも浮腫や結石はなし。下痢はなんらかの感染症、赤っぽい尿は脱水が原因との診断だった。自分的には軽度の横紋筋融解症だと思うんだけど、まあ治ったんだからいいか。
私立病院の観察日記

お昼から看護師さんが薬を投与してくれた。面白いのは、僕の名前が印刷された個別パッケージで薬が届くこと。普通にまとめて持ってきてくれればいいのに、わざわざ印刷してパッケージにする。この印刷代もかかるよなぁって。私立病院らしい。
病院の中を観察していると、階級のようなものが見えてくる。血圧を測る看護師と、注射や投薬をする看護師では服装が違う。先生を取り巻くようにスタッフが配置されている。
点滴の装置が頻繁にアラームを鳴らすので、何度も看護師さんを呼んでしまった。タイでは10時間と設定したらちょうどその時間で終わるように機械が調整してくれる。医療技術のレベルは本当に高い。
午後、腎臓の詳しい検査をすることになった。車椅子に乗せられて検査場へ。普通に歩いていけるのに、これも料金に含まれるんだろうなって思った。検査室で服を脱がされて、膀胱に尿がしっかり溜まっているかと、腎臓に異常がないかをエコーで見る検査だった。膀胱の下まで降ろされて正直恥ずかしかったけど、医者からしてみれば人間のパーツでしかないんだろうなって思う。
「明日退院できそうかな?」と聞いたら、「下痢もあるからわからないね」とのこと。パソコンも荷物もホステルに置きっぱなし。なんとか明日は帰りたい。
病院食と、孤独と

夜ご飯はチキン入りのおかゆ。味は中の下くらい。The病院食という感じ。だけど、これも良い経験だなって思う。
普段なにもなく、病気もなく、普通に生きられるということがどれだけ特別でありがたいことなのか。普通に過ごせた1日は、本当にすごいことなんだ。体調を崩すたびに、そう思う。

夜中、何度も大量の汗をかいて目が覚めた。タオルで拭いては寝て、ORSを飲んで、また汗をかいて拭いての繰り返し。昔、病気になったときにお母さんとおばあちゃんがシーツを替えてくれたり、背中を拭いてくれたのを思い出した。今は一人でやらないといけない。病気になったときに、孤独を感じる。でも、この孤独は乗り越えなければいけない。
看護師さんが夜に点滴で抗生物質(セフトリアキソンという第三世代セフェム系の抗菌薬)を入れてくれた。飲み薬としてはドキシサイクリン(感染症の治療に使われる抗生物質)も処方された。終わった生理食塩水も交換してくれた。熱は昨日よりも確実に良くなっている。少しずつ、回復に向かっている。




