ポチに着いた瞬間、観光客がゼロだとわかった。
バトミから2時間、マルシュートカに揺られてたどり着いた黒海沿いの港町。ソビエト時代の建物が立ち並んで、大通りが1本だけある。観光するところは何もない。ただ、人が住んでいる。
それだけで、もうすごく面白かった。

タクシーおじちゃんと、クラスノヤルスクの男
マルシュートカを降りてすぐ、タクシー探しで詰まった。
いつも使うBoltがポチでは圏外。同じバンで降りたロシア人がYandexを使っていたが、到着まで28分と出た。もう一つのアプリ、Maximをダウンロードしたら、すぐ来そうになった。
タクシーを待つあいだ、そのロシア人と話した。
クラスノヤルスク出身。港でコンテナの荷降ろしをしているらしい。顔は怖そうだった。でも話しかけたら、僕が喋る以上にフレンドリーにいろいろ話してくれた。
「ロシア、制裁でコカコーラ来ないんですよね?」 「第三国経由でたくさん来てるよ」と笑った。
ロシア語で、しっかり伝わっている。これが地味に嬉しかった。こういう会話が自然にできるようになっていた。
タクシーがようやく来た——と思ったら、アプリには「到着済み」と出ているのに車が来ていない。キャンセルした。2分後に本人が現れた。
なんやねん。
おじちゃんのタクシーに乗ることになったが、おじちゃんがどこへ行けばいいかわからない。ロシア語でマップを指さして「ここだよ」と伝えても、目が遠いのか全然わからない。止まって確認して、でもまだわからない。
結局、アパートのオーナーに電話することになった。
おじちゃんが電話する。ジョージア語でやりとり。それでようやく場所がわかって、アパートに到着した。
3.5ラリ。20ラリ払ったらお釣りが15.5来た。0.5ラリはいいよということで、15ラリ返してもらった。
アパートのお姉さんが下りてきて、案内してくれた。すごくフレンドリーだった。
バトミで1ヶ月過ごしてきた。あそこは都市だった。ここに来た瞬間、人が全然違う。ゆっくりしていて、心の中に余裕がある。急いでないし、稼がないとっていう感じがない。ただ、生きている。
わざわざ電話して、待機して、案内まで。忙しい街では、なかなかそうはならない。
大都市の人が冷たいんじゃなくて、大都市が人を冷たくしているんだと思う。この街に来るたびに、それを感じる。
ブリストルとサッカー観戦
少し昼寝してから、晩ご飯へ。
マルシュートカのロシア人にも、アパートのお姉さんにも「ブリストルがいい」と言われたので、ブリストルへ向かった。
大通りを歩くと、何人かの若者に「ハロー」「コンニチハ」と声をかけられた。外国人がほとんど来ない街で、希少性が高いのだろう。ちょっとびっくりして、でも嬉しかった。
ブリストルに入ると、ジョージア対イスラエルのサッカーで盛り上がっていた。

ターメリックスパイスの牛肉スープ、ショティのパン、緑色のジョージア産レモネードを注文した。「ほうれんそうみたいなソースにパンをつけると美味しいよ」と店員さんが教えてくれた。つけて食べたら、めちゃめちゃ美味しかった。3ラリくらい。約108円。
レモネードはまじで緑色だった。草の味がした。うまいのかどうかよくわからない。でも、常地。
食べながら、サッカーを観た。人生でちゃんとサッカーを観たのは、初めてかもしれない。パスして、体がぶつかって、ゴールが決まったとき、店内がわっと沸いた。
人間らしいなぁ、と思いながら眺めた。
感情が出ているときこそが、生きているということだと思う。日本の電車の中で死んでいるように見える人たちのことを思い出した。感情を抑えすぎて、逆にどこかで爆発してしまっている人もいる。ああいう人たちの方が、本来の姿に戻ってきているのかもしれない。
食べながらカメラを向けて喋っていたら、帰り際にお兄さんに「YouTubeやってるの?」と声をかけられた。チャンネルを登録してくれた。
まだ13人。1人増えるだけで、本当に嬉しい。後から「ジョージアからだよ」ってコメントまで入れてくれていた。
17歳のしつこさ

アパートへ戻る途中、また若者に声をかけられた。
16歳と14歳くらいの子たちで、14歳の子が「ワン ラリ プリーズ」と言ってきた。貧しそうには全然見えなかった。でも、かわいそうになった。
近くのお店に入って、水1リットルとチョコバーを3本買って、3人にそれぞれ渡した。「ありがとう」と握手してくれた。
この旅に来てから、「しつこさ」ってすごいなと思うことが多い。
17歳の子たちの、あの遠慮のないぐいぐい感。大人になると、声をかける前に「これどうかな」って頭で考えてしまって、何もしないという選択をとってしまう。自分の色眼鏡で全部処理して、行動しない。
もったいないな、と思う。
今の僕は「何者でもない人間」として旅をしている。職業もない、肩書きもない。だからこそ、誰にでも話しかけていいし、どんな人にフレンドリーになってもいい。条件も何もない。可能性は無限大のはずだ。
なのに、なぜか守りに入ってしまう。
今は人生の拡散期だと思っている。とにかくいろんな人と関わって、自分を広げていく時期。だからこそ、もっとガツガツいけるようになりたい。蓄積してきたものが多いほど、守りに入りやすくなる。わかってはいる。でも崩すのは難しい。
崩したい。崩せたら、きっとぶわっと爆発すると思う。
まだ、できていないけど。
寝坊と足止め
翌朝、起きたら7時10分だった。
7時10分は、列車の出発時刻だった。
終わった、と思った。
ボルジョミとゴリのアパートはもう取ってある。Booking.comのチャットで「寝坊して乗れなかった。1日ずらしてほしい」と送った。なんとかなった。
ただ、ポチでもう1泊しないといけない。約4,000円。ジョージアにしては高い。しょうがない。これも旅だ。
せっかくだからと、別のレストランへ。オジャフリを注文した。じゃがいもと豚肉と玉ねぎを炒めたジョージア料理。きゅうりとトマト、くるみのペーストを混ぜたサラダも。

ここでもカメラを回しながら喋った。フランス語で喋ったり、英語で喋ったり。おばちゃんがちょっとにやっとしていた。
昨日より自然にしゃべれた。
観光客がいない街で、外国人が自分だけだと、なんか自分が特別な存在みたいに感じる。セルフイメージが変わる。「自分は目立つ存在だ」って脳が勝手に書き換えて、自然にそう動ける。バトミのような観光地では、同じ観光客の1人に過ぎないから出来なかったりする。

場所が人を変える。環境がセルフイメージを変える。
ロシア語でずっと注文していた。ジョージアにはロシアに批判的な人も多いから、少し使うことに抵抗があった時期もあった。でも、ロシア留学で覚えた言葉がここで生きている。英語しか知らなかったら、絶対なかった会話だ。何でも勉強しておくものだと感じた。
スーパーでコカコーラ、キウイ、バナナ、ヨーグルトを買ってアパートへ戻った。
翌朝はちゃんと6時に起きた。
シャワーを浴びて、急いでMaximを呼んだ。運転手がロシア語で話しかけてきた。眠くて焦っていたから、何も考えずにロシア語で返せた。
それで気づいた。疲れているときや焦っているとき、不思議と自然体になれる。
考えすぎない。頭で全部処理しなくなる。「自然体」というのは考えすぎないことなのかもしれない。余裕があるから考えすぎる。焦っているからこそ、本能で動ける。
ゴリへ

今、ソビエト時代の電車に乗ってゴリへ向かっている。5時間の各駅停車。車窓からジョージアの景色が流れている。
ゴリはスターリンの生まれた街だ。スターリン博物館がある。久しぶりに、歴史を感じる日になりそうだ。
観光客ゼロの2日間だったけど、本当にいろんな人と話した。
バトミに1ヶ月いて、ほとんど交流がなかった。ローカルの街に来たら、1日で何人もの人と関われた。街が人を変える。自分がどこに身を置くかで、まったく違う人間になれる。
ローカルの街に行くと、何かが得られる。それだけは確かだ。





