「Where are you from? What do you do?」
5メートル離れた場所から、ルームメイトが先に話しかけてきた。その一言から、気づけば部屋には見知らぬ5人が集まっていた。
春のトビリシ、ファブリカへ
久しぶりにファブリカに宿泊することにした。
春が来て、人々が冬眠から覚めたようにぞくぞくと外に出だす。この活気、この空気が大好きだ。日本にいたら4月は年度替わりでストレスの季節だったけど、日本を離れてからの春は、最高の季節になった。
最近はホステル生活をしている。理由は単純で、人との出会いを楽しみたいから。ホテルと違って、隣に分厚い壁がない。20代は拡散・探索期だからこそ、たくさんの人と出会って人脈を広げることが大切だと思う。
10人部屋を予約して、中に入る。1人の男の子がいたので、Hiとだけ言った。
ルームメイトNikaとの出会い

初日の1枚。
ロビーで仕事をしたり、街をブラブラしてから部屋に戻った。夜ご飯はスーパーのお惣菜。ルームメイトはずっとパソコンをベッドの上でいじっていて、正直、怠惰な人だなと自分の中でジャッジしてしまっていた。
一人でリラックスしながら食べていると、彼が先に聞いてきた。
「Where are you from? What do you do?」
彼はNika。Spotifyのカスタマーサポートで働いていて、夕方から夜11時まで仕事があるらしい。仕事の合間はスケートボードでトビリシを散策。田舎に住んでいて、お金が尽きるまでトビリシに来ては人との出会いを楽しんでいるという。イタリアに数十年住んでいて、イタリア語も堪能。すっかり仲良くなった。
見知らぬ5人に、体が固まった
そこに、新しく1人入ってきた。モロッコ人でフランス在住。リヨンの大学で心理学を学んでいて、今年の夏はエラスムスプログラムでブラジルに交換留学に行くという。人生最高の時間じゃん、なんて話をしていると、また新しく入ってきた。両親はバングラディシュ人、生まれはカナダの子。軍事系の会社でカメラ開発のインターンをしていて、彼もモロッコ人の彼も人生初めての一人旅だという。ジョージアを選んだ理由を聞くと、フライトも滞在費も安いから、とのことだった。
盛り上がっていると、さらにフランス人の子が入ってきて、あっという間に5人になった。
そこからグループでの会話が始まる。僕は慣れていなさすぎて、グループになるとすぐに黙ってしまう。初対面でジャッジされるのが怖いのかもしれない。高校生の頃のグループでのいじめがフラッシュバックしたのか、彼が僕の目を見てくれなかっただけで、すごく敏感に反応して、恐怖になっていた。
でも、そんなことをずっと考えていてもだめだと思って、自分から積極的に質問してみた。すると少しずつ慣れることができた。同時に、海外では当たり前のグループでの会話に、自分がどれだけ慣れていないかを知らされた。これから海外で働きたいなら、グループで意見を交わすのは当たり前のこと。自分には練習が必要だと痛感した。

名刺を飾りにMoosicaへ
Nikaに夜11時、ビールを飲みに行こうと誘われた。
同時に、今日はMoosicaホステルも予約していた。2022年にグレッグと出会った思い出のホステルで、目的は僕の飾ってある名刺の横に新しい名刺を飾ること。だから当初、泊まる予定は全くなかった。でも宿泊費が1000円くらいで安かったので、まあいいだろうと。
Moosicaに歩いて向かう。驚くことに、内装はほぼ変わっていなかった。でも、人は変わっていた。グレッグのような温かい人ではなく、マニュアル通りに動くロシア人スタッフ。出迎えてくれる人だけで、ここまで空気や感情が変わるのかと、人の影響の大きさを感じさせられた。
リタイア旅人が見せてくれた世界
チェックインをして、ウェルカムドリンクの白ワインをもらった。
酸化していて、正直あまり美味しくなかった。
机に座ってワインを飲んでいると、新しい旅人がチェックインしてきて、僕の近くに座った。彼はアルメニア行きの電車について聞いていたので、経験がある僕がアドバイスをして会話に入った。
彼はポーランド出身。リタイアして、今は世界を旅している。インスタグラムを交換すると、ソ連時代のロケットが展示してあるカザフスタンのバイコヌールに行ったり、シリアやイラクにも行ったことがあるという。その体験談はすごいものだった。一瞬でインスピレーションをもらった。
メディアで語られていることは一部でしかなくて、実際に行ってみると人の良さに驚く。アフガニスタンの人も、メディアで見るのと、実際に旅した人の動画を見るのとでは雲泥の差がある。だからこそ自分の足で訪れて体験したいと思った。
ワインを飲んでいたからか、普段のシャイさにも勝って、純粋にインスタグラムを聞いたり、一緒に写真を撮ったりした。

彼とはすごく短い時間だったけど、お話をした30分はすごい価値のあるものになった。
深夜1時のヒンカリ
急いでファブリカに戻った。結局、カナダ人の子とNikaと3人でヒンカリを食べに行くことになった。


お互いの国の家賃や物価について、いろんな興味深い話をした。
気づけば、ぺろっと平らげていた。
笑顔のWilliamと出会う
次の日、たまたまホステルに戻ると、別のフランス人の子とNikaが話をしていた。
「Nice to meet you」と握手をして、また新しい出会いだった。彼はトゥールーズに住んでいるWilliam。ジョージアで映画を撮影するために来ているらしく、笑顔が本当に素敵だった。会った瞬間に、僕も笑顔になった。ロシアに留学していた頃、いろんな人に好かれたのは、僕がWilliamのようにいつも笑顔だったからだ。今、相手に笑顔で迎えられて、一瞬で心を奪われてしまった。笑顔にはやっぱり果てしない力がある。
Williamはビンテージのビデオカメラで映画を撮影していて、大学のプロジェクトの一環らしい。トゥールーズの公立大学でフィルムを学んでいて、交換留学で来たジョージア人と友達になったのがきっかけでジョージアに興味を持ち、友達に会うために来たという。そこから「じゃあ一緒にドキュメンタリーを撮ろう」という話になったらしい。

トゥールーズだからショコラティンって言うよね、なんて話をしながら歩いた。
パフラバとアイスクリームの夜
3人で軽食を食べに行くことにした。編集ソフトの話、好きな映画の話、ありとあらゆる話をした。深夜だったからか、NikaもWilliamも眠たそうだった。Williamは早朝から夜遅くまでずっと映画の撮影をしているらしく、忙しそうだった。ネクタイをしていて、すごくファッショナブルだった。
結局、トルコのデザートのパフラバとアイスクリームを注文した。

将来、Williamの映画を映画館で見るのを楽しみにしてる、なんて話をした。
30分くらい話して、ホステルに戻った。今回は僕のおごりで。年上の人といたときは、いつも奢ってもらっていた。だから今度は自分の番。一番年上だったので、すべてご馳走した。年齢を感じたけど、同時に人に何かをやってあげることに、すごく幸せを感じた。
目に映る、その人の心
Williamには僕のノートにメッセージを書いてもらって、僕も名刺にメッセージを書いて渡した。
彼のようなポジティブで笑顔で素晴らしいVibeを持っている人には、やっぱり人が集まる。人はポジティブなエネルギーを持っている人のそばに行きたいものだ。逆に、目が死んでいて、ネガティブだったり静かな人のところには行きたくない。それは間違いない事実だと思った。
今回出会った4人を見ても、目を見てすぐにわかる。人を軽蔑するようなことに慣れている目、繊細だけど優しく力強い目、疲れ切って人生を諦めているような目。目は恐ろしいくらいに、その人の心の中身を表している。僕も常に目が輝くように、心を磨き、整え、自分の中にある不信や恐れをなるべく削除して、きれいなフィルタリングされていない心を取り戻していきたいと思った。
今振り返ってみると、こんな出会いはすべて、適切なタイミングだったとしか思えない。
もし、Moosicaとファブリカを同時に予約していなかったら。チェックインの時間が少しでもずれていたら。ホステルに戻って食事をしなかったら。このうち1つでも一致しなかったら、この出会いはすべてなかっただろうし、別のものになっていたと思う。そして、僕の心がオープンじゃなかった場合も。
慣れというのはすごく怖くて、同じホステルに数日滞在するだけで、新しい人が来ても「また同じ繰り返しか」と無視をしてしまったり、興味が一気に薄れてしまう。だけどファブリカ初日だったからこそ、僕の心は最大限に開いていた。
これも、一つの運。



